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トラネキサム酸、ビタミンC、ビタミンE、L-システインの内服について

[2022.07.09]

トラネキサム酸は人工的に合成されたアミノ酸の一種で、止血作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用を有する抗プラスミン薬です。ビタミンCやビタミンEと併用し、肝斑や炎症後色素沈着の治療に用いられます。

肝斑はプラスミンが活性化しメラニン産生が亢進し、真皮に炎症が生じた状態といわれています。トラネキサム酸は抗プラスミン作用によるメラニン産生抑制、メラノサイトに直接作用しメラニン合成を抑制、プロスタグランジン産生阻害により肝斑への効果を発揮します。

肝斑部は血管新生とVEGFの発現が増加していると指摘されています。トラネキサム酸はVEGFを遊離させ、血管新生由来のbFGFを抑制すると報告されています。

 

トラネキサム酸の内服量について

過去の研究では1日当たり500~750㎎で有効性を示す研究の報告があり、当院では1日750㎎量を処方させていただいております。

血栓症のリスク

トラネキサム酸には血栓症のリスクが高くなる可能性が指摘されています。デンマークにおけるトラネキサム酸の内服による血栓症のリスクを評価した研究(主に過多月経に対する処方)ではトラネキサム酸の内服(多くは1回1g、1日3回の内服を5日間)により、静脈血栓のイベントは未摂取者で年間10000人あたり2.5人から摂取者で10000人あたり11.8人と増加したと報告があります。一方で肝斑の治療に使用されるような低用量のトラネキサム酸での血栓塞栓の有害事象は報告されていません。
ピルとトラネキサム酸の併用については28歳、42歳の女性で心筋梗塞が発症したとの症例報告がありますが、ピルとトラネキサム酸の併用による明確な影響の報告はありません。
当院ではピルの服用など血栓症を起こす恐れのある方の服用については、万一を考え原則避けるよう説明をさせていただいており、エレクトロポレーションなど他治療をご提案させていただいております。
参考ではありますが、トラネキサム酸が配合された薬剤での添付文書上で、米国のLYSTEDA錠ではピルとの併用は避けるように記載され、日本のトランシーノでは注意が必要とされています。

 

シミ治療後の後療法

Qスイッチレーザー(532)でのシミ治療後に1日あたりトラネキサム酸1500㎎の内服を6週間行った研究では色素沈着の発生率に有意差はなかったものの、ダーモスコピー上での色素顆粒の発生は有意に低いという報告があります。また、前腕のシミに対してQスイッチレーザー(532)で治療後、生理食塩水もしくはトラネキサム酸(50 mg / mL)の皮内注射を実施した研究では、トラネキサム酸の皮内注射で4週間後の色素沈着を有意に減らせたという報告があります。

当院ではシミ治療におけるスポット照射の後療法として内服やトラネキサム酸のエレクトロポレーションの併用をおすすめさせていただいております。(肝斑治療に準じて1日あたりトラネキサム酸750㎎の処方となります。)トラネキサム酸のメソセラピー併用については検討中で、ご提供可能となり次第ご案内したいと考えております。(必要に応じてハイドロキノンの外用などをご提案させていただくこともあります。)

 

注意事項
    • 妊娠中、妊娠の可能性がある方、ピル服用中の方、血栓症リスクのある方はご使用できません。
    • 消化器症状(嘔気や下痢など)が出現することがあります。
    • 稀に薬の影響で皮疹等出現することがあり、異常な症状が出現した際は内服を中止し医師へご相談ください。
    • 内服による効果は2か月程度経過してからになります。

 

ビタミンC、ビタミンE、L-システインの内服について

ビタミンCはL-アスコルビン酸で水溶性ビタミンの1種です。過剰摂取による大きな副作用はないものの、摂取量により吸収率が異なり、1g/日を上回ると吸収率は50%未満となり、吸収されても代謝されなかったアスコルビン酸は尿中に排泄されます。

作用機序はメラノサイトがメラニンを生成する過程で

 チロシナーゼの活性を阻害

 メラニン生成の中間代謝物であるドーパを還元

 メラニンに作用し還元する作用

があると考えられています。

肝斑治療において、ビタミンC900mg/日、ビタミンE450mg/日の配合剤と単剤内服加療を行い3か月後の改善は配合剤で69%、ビタミンE単剤で60%、ビタミンC単剤で50%であり、ビタミンEとの配合剤がビタミンC単剤より有意に効果があったという報告があります。

また、川島らの研究では、ビタミンC300mg/日、L-システイン240mg/日と、ビタミンC・L-システインに加えトラネキサム酸750mg/日の内服をした多施設無作為化比較試験での肝斑改善率が前者で26.5%であったのに対し、後者で60.3%と有意に高い結果であった。

当院では上記の吸収率等から、1日のビタミンC摂取量は800mgでの処方をさせていただいております。また、ビタミンEとL-システインの併用をおすすめさせていただいております。

ビタミンEは脂溶性ビタミンのため体内に蓄積影響を及ぼす可能性があるため、200mg/日での処方をさせていただいております。

L-システインは320mg/日での処方をさせていただいております。

注意事項
    • ビタミンC、ビタミンE、L-システインでは胃の不快感、悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状が出現することがあります。
    • 稀に薬の影響で皮疹等出現することがあり、異常な症状が出現した際は内服を中止し医師へご相談ください。
    • 内服による効果は2~3か月程度経過してからになります。

 

 

参考資料

菅原 順: ピコ秒レーザー(イチからはじめる美容皮膚科マニュアル). デルマ (321), 18-26, 2022-04.

長濱 通子: 肝斑に対する内服治療 (特集 今,肝斑について考える. Pepars (175), 5-8, 2021-07

Hyun Jung Kim et al. : Efficacy and Safety of Tranexamic Acid in Melasma: A Meta-analysis and Systematic Review. Acta Derm Venereol. 2017 Jul 6;97(7):776-781.

Suthinee Rutnin et al. : A Prospective Randomized Controlled Study of Oral Tranexamic Acid for the Prevention of Postinflammatory Hyperpigmentation After Q-Switched 532-nm Nd:YAG Laser for Solar Lentigines. Lasers Surg Med. 2019 Dec;51(10):850-858.

Gianluca Iacobellis 1, Gianfranco Iacobellis.: Combined treatment with tranexamic acid and oral contraceptive pill causes coronary ulcerated plaque and acute myocardial infarction. Cardiovasc Drugs Ther. 2004 May;18(3):239-40.

Alexander Sirker et al.: Acute myocardial infarction following tranexamic acid use in a low cardiovascular risk setting. Br J Haematol. 2008 Jun;141(6):907-8.

Amani Meaidi et al.: Oral tranexamic acid and thrombosis risk in women. EClinicalMedicine
. 2021 May 6;35:100882.

Punyaphat Sirithanabadeekul et al. Intradermal tranexamic acid injections to prevent post-inflammatory hyperpigmentation after solar lentigo removal with a Q-switched 532-nm Nd:YAG laser. J Cosmet Laser Ther. Nov-Dec 2018;20(7-8):398-404.

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